星リアSS『酒と独り言』
「ねぇ…ねぇってば!聞いてる!?」
ぐい、と勢いよく袖を引っ張られ
オレははっとなって顔を上げた
見れば隣りにいる女の子が
不満そうな顔でオレを見ていた
「もぉ〜!
またあたしの話聞いてなかったでしょ!?」
甲高い声で言う女の子。
あー、やべ。ぼーっとしてた。
これ以上怒らせても面倒だし、と
オレの頭は高速回転を始めた
あーっと、この子は確か…えーっと
…そうそう、エマちゃんだ。間違いない
サラちゃんと似た顔してるから
間違わないように気を付けねーとな
「あ〜、ゴメンな、エマちゃん
思ってたより疲れてたみたいで
ちょっと酔いが回っちまってたみたいだ。
今度はちゃんと聞くからさ、
もっかい話して聞かせてくんないか?」
へら、と笑いながら頭を撫でてそう言うと
先程までの剣幕はどこへやら
「もぉ、仕方ないなぁ」と笑いながら
彼女はぺらぺらとお喋りを再開した
実際のところは全く酔ってなんていないから
更に度数の高い酒を追加で頼んだ
目の前に出されたグラスに口を付け、
勢いよくぐいと煽る
流れ込んだ酒で喉が焼けるように熱くなる
――この瞬間が、最高に気持ちいい。
今度はまぁそこそこに話を聞きつつ
「へぇ、そりゃひどいな」
「大変だったんだな」
などと適当に相槌を打つ
彼女は更に勢いづいて
気持ち良さそうにお喋りを続ける
彼女の話はまぁどこにでもあるような愚痴で
オレの右耳から入ってすぐに左耳から出ていく
女の子は好きだ
かわいいし
酒が好きだ
うまいから
酒を飲むなら女の子が一緒の方がいい
その方が気が紛れるから
…気が紛れる?
…あぁ、そうだ。
オレは気を紛らわしたいから
女の子と遊ぶし、酒を飲む。
一瞬でもいい。忘れたいから
オレが
騙して 殺して きた 人の
叫ぶ声 苦しそうな 顔
オレを 責める 呪う 言葉 言葉 言葉
『許さない』
「…ねぇ、カイラ。ほんとに大丈夫?」
顔を覗き込む女の子と目が合った
あ、やべえ。またやっちゃったのか。
――今日はなんだか調子が出ねぇな
「んあ〜、酔っちゃったみたいだ。
ごめんなぁ、今日はいつもより疲れてるぽい」
「うん…あっ!じゃあさ
うち近いから泊まっていきなよ、ね?」
するりと腕を組み、にこりと笑う女の子
積極的な子は嫌いじゃないけど
「あ〜…ごめん
今日は気分じゃないかもしんないな」
へら、と笑って返すオレを見て
彼女は複雑そうな表情をした
寂しいような
悲しいような
疑うような
責めるような
けれど
嫌われたくないから
責めちゃいけない
不満だけど受け入れなくちゃ
…そんなのがゴチャ混ぜになってんだろなって
そんな表情。
今まで何度も見てきた
何人もの女の子のこの表情を見てきた
そんな時はオレはいつも決まって
女の子の頬にキスをして、
「埋め合わせは必ずするよ。また今度な」
と言ってへら、と笑う
そうすると女の子達は決まって
「約束ね」
と言って嬉しそうに笑う
…その繰り返し。
女の子は好きだ。
エマちゃんもサラちゃんもマリーちゃんも
他にもたくさん。名前忘れちゃった子も。
明日出会うかもしれない子も。
みんな好きだよ。
みんな同じくらい、好きだよ。
一人夜道を歩きながら
はは、と吐き捨てるように笑った
我ながら、不誠実にも程があるよなぁ
だけどだって、それが本心なんだから
仕方ねぇよな
…いつかオレも出会うのだろうか
“このひとしかいない”って思える女の子と
他の女の子達とは違うくらい
心の底から『好きだ』って想える女の子と
そうしていつかその子と結ばれたなら
幸せな、毎日を――
「…それはないかぁ。
許されるわけねぇもんな。オレが
“人並みに幸せな毎日”を送るなんてさ」
溢した独り言は誰の耳に入るでもなく
夜の静寂に飲み込まれた
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